もうだいぶ前のことですが、ビートルズの書籍出版に関わったことがあるので、その本について紹介します。それは1990年に発売された「ビートルズ/レコーディング・セッション」という本で、原書(「The Complete Beatles Recording Sessions」)は1988年にイギリスで出版されました。現在の日本語版は改訂されていて、初版では省かれていたカラー写真や図版などが増え、「完全版」と銘打たれています。
この本は、著者のマーク・ルーイスンがアビィ・ロード・スタジオに残るビートルズのレコーディング・テープをすべてチェックし、関係者の証言を含めてビートルズのレコーディングの様子を1日ごとに記載したものです。内容的には非常にマニア好みのものです。「Besame Mucho」「Love Me Do」「P.S. I Love You」「Ask Me Why」の4曲を初めてレコーディングした1962年6月6日(水)から、フィル・スペクターが「The Long And Winding Road」「I Me Mine」「Across The Universe」のリミックスを完了させる1970年4月2日(木)までの貴重な、また非常に興味深いビートルズのレコーディング記録となっています。
ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版
著者:マーク・ルーイスン
訳者:内田久美子
監修:宮永正隆
発行:シンコーミュージック・エンタテイメント
当時、私は版元とはライバル関係にあった出版社に在籍していたのですが、レコーディング専門誌の編集者をしていたことから、翻訳にあたり協力依頼の連絡があったのです。LPサイズの豪華ハード・カバー版の原書が発売されたことは知っていたため、その申し出にはビックリしましたが、たいへん嬉しいものでもありました。
またこの当時、『ULTRA RARE TRAX』というビートルズの海賊盤CDが出回っていたんです。初めて耳にするビートルズの未発表テイクが多数収録されたこのCDは、Vol.1からVol.6まで作られ、しかも音質も非常に良かったので、非常に驚いたものです。なんでも、1980年代半ばにEMIは『SESSIONS』というアウトテイクス集のアルバム発売を企画しましたが、メンバーの反対で実現しなかったそうです。そのときの販促用音源が流出したと言われているようです。のちにEMIは海賊盤に収録された曲をほとんど網羅した『アンソロジー』シリーズを正式にリリースします。
ところで、『ULTRA RARE TRAX』が最初に発売されたのは1988年、この本の原書が発売されたのも1988年。なんかタイミング良すぎですね。
ULTRA RARE TRAX Vol.1;
The Swingin' Pig
そんな背景もあり、翻訳版が出ることは個人的にも非常に興味があったので、即決で協力することにしました。オファーは、レコーディングの専門用語が出てくるため、そのあたりで協力してもらえないかというようなことだったと思いますが、ゲラをすべて見せてもらう方が早いだろうということをこちらから提案しました。量的には膨大で、校正には結構時間がかかったように記憶していますが、非常に興味深く読ませてもらいました。ビートルズ(特にジョン)がレコーディングにものすごく力を注いでいたことがよく分かりました。
あ、ちなみに、この作業はボランティアでした。本はいただきましたが、アルバイトではありませんよ。そこんとこ、念のために申し添えておきます。
結構分量のある本なので、頭から読んでいくのは大変かもしれませんが、好きな曲やアルバムをピックアップして少しずつ読んでいくと楽しいかもしれません。ポールのインタビューも掲載されています。
余談ですが、私、かつてアビィ・ロード・スタジオを取材させてもらったことがあるんです。それが何年だったかすぐに思い出せないのですが、大体1990年前後だったと思います。レコーディング機材は当然変わっていたのですが、Studio 1も2もビートルズがレコーディングした時とあまり変わってないですよ、と説明を受けました。コントロール・ルームではなく、スタジオ側のことですね。元々クラシックのレコーディングによく使われていたスタジオですから、スタジオ内は広く、天井も高くて、音響的にはライブな感じだったのが印象的でした。ここでジョンが床に寝転がって歌を録ったりしたのか…とか思うと、とても感慨深いものがありました。これは本当に忘れ難い記憶ですね。
初版の「ビートルズ/レコーディング・セッション」は店に置いてあります。ご覧になりたい方はご来店ください。お待ちしております。